ネヘミヤ記9章8節について その2
『新改訳聖書』第3版のネヘミヤ記9章8節に、次のように書かれています。
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9章8節
あなたは、彼の心が御前に真実であるのを見て、カナン人、ヘテ人、エモリ人、ペリジ人、エブス人、ギルガシ人の地を、彼と彼の子孫に与えるとの契約を彼と結び、あなたの約束を果たされました。あなたは正しい方だからです。
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3行目から、「・・・あなたの約束を果たされました。・・・」とあります。
この中の「果たされました」に当たる原語は、七十人訳では、多少読み方は違うかもしれませんが、「ヘステーサス」となっています。「ヘステーサス」は、「ヒステーミ」の変化形です。
「ヒステーミ」の直後に「トゥース ログース」(意味は「それらの約束を」など)という「対格」の言葉があるので、すなわち、英語で言うと、「目的語」に当たる言葉があるので、「他動詞」として用いられている、と言うことができます。
「ヒステーミ」の「他動詞」には、わたしが持っている辞典では、次のような意味があります。
① 立たせる、立てる、置く、進み出させ る;・・・
② ⦅比⦆
イ 確立する、妥当させる、有効にする;・・・
ロ 決定する、定める;・・・
ハ 真直ぐ(しっかり)立たせる(立たせておく);・・・
ニ 秤る、秤って渡す;・・・
以上です。
これを見ると、「果たす」や「成就する」といった意味はありません。「約束」という言葉ととに用いる場合、この中では、②のイの「確立する、妥当させる、有効にする」が最もよいのではないかと思います。また、②のロの「定める」も用いることができるのではないか、と思います。
そうするとどうなるのか、と言いますと、「ヘステーサス トゥース ログース」は、「それらの約束を確立した」や「それらの約束を有効にした」といったように訳すことになります。
これは、契約を結んだことによって、「それらの約束を確立した」や「それらの約束を有効にした」と理解することができると思います。
ビブリア・ヘブライカ・シュツットガルテンシア(BHS)には、「彼・・・に与える」に当たる言葉は、ありませんでしたが、七十人訳にはそれがあります。したがって、「彼と彼の子孫に与える」と考えることができます。
しかし、七十人訳の場合、BHSとは違って、「果たされました」に当たる言葉が無いのです。つまり、「あなたの約束」が「果たされた」かどうかは分からない、ということになります。
したがって、七十人訳の場合は、カナンの地が、アブラハムとアブラハムの子孫に与えられたかどうかは分からない、ということになります。この場合も、どちらかに『確定』することはできない、と言えると思います。
興味深いのは、ネヘミヤ記9章8節の「・・・の地を、彼と彼の子孫に与えるとの契約を彼と結び、あなたの約束を果たされました。・・・」という部分の日本語の訳文が、BHSの原文と七十人訳の原文とを、「合わせたもの」の訳文になっているのではないか、と思われる点です。